のののなつやすみ

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のののなつやすみ


3 名前 : のののなつやすみ   投稿日 : 2001年08月09日(木)23時58分47秒  


私、辻希美14歳! 元気いっぱいの女子中学生!
であるとともに今をときめくモーニング娘。の一員だよ!

なんだか最近インターネットで私が脱退する、みたいな噂が
流れてるみたいだけどそんなことないよ!
そんな噂、いっしょうけんめいお仕事がんばってふっとばしてやるんだから!

というわけで今日もまじめにダンスレッスン。
ワン・ツー、ワン・ツー、
となりではあいぼんもいっしょうけんめいがんばってる。
よーし、負けないぞー!



4 名前 : のののなつやすみ   投稿日 : 2001年08月09日(木)23時59分26秒  


なんて思っていた矢先に過労でぶっ倒れた。マイガッ!

やってらんねー。マジやってらんねー。
神様はののに何か恨みでもあるのれすか?

「のっ、ののっ!? 大丈夫!? しっかり! しっかりしてっ!?」

あいぼんが慌てて私を抱き起こす。その顔はもう蒼白。
色で例えるならば真っ青な空の色、スカイ・ブルー。
なんだか顔に縦線でも入っているみたい。
ああ、よかったね、あいぼん。もしかしたらちびまる子ちゃんとかに出演できるかもね。

「だっ、誰かっ! 救急車! 救急車呼んでッ!」

その声は後藤さんだっただろうか。もう私には判別不可能。
どっかから救急車のピーポー、ピーポー、という音が聞こえてきたような気がした。
薄れてゆく意識の中、私は

「そういえば昔、救急車のことをピーポー車なんて呼んでたっけなぁ…」

というようなことを考えていた。いや、実際、今でもそう呼んでいた。



5 名前 : のののなつやすみ   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時00分13秒  


お医者さんは私を診察して一言、
「過労ですね」 だって。
んなことわかってるよ。ついさっき言ったばっかじゃない。
…あれ? 私、誰に向かって言ってるんだろう。
やっぱり疲れているのかな? まあいいや。
そしてお医者さんは続けて、
「しばらくせいようが必要です」
と言った。

「『せいよう』? 何それ? 西洋ナシはラ・フランス? ミーはおフランス帰りザンス?」

…などとでも言うと思ったか。バカにしないでいただきたい。それが『静養』を
差すということは小学生でも周知の事実。ウルトラセブンの正体は諸星ダンだと
いうくらい誰でも知っていることだ。しかしその時、

『何だかキャラがめちゃくちゃだよ。もうちょっと統一した方がいいよ』

と、神の声が聞こえた。ような気がした。
ああ、やっぱり私、疲れているんだなあ。



6 名前 : のののなつやすみ   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時02分12秒  


そういうわけで私はしばらく、モーニングのお仕事を休むことになった。
お父さんとお母さんは、
「せっかくのお休みなんだし、ちょっと田舎の方で美味しい空気でも吸ってこようか」
と言い、マネージャーさんも、
「う〜ん、ま、しょうがないか。 この際だからゆっくり夏休みしてきなよ。
 こっちの方はなんとかうまくやるからさ」
と言ってくれた。それを聞いて私は、

「いや、マネさん、本当にそれでいいんですか? まさかこれは
 『辻希美、脱退へのシナリオ第一章』の始まりじゃないでしょうね?」

と、思わず口にしてしまいそうになったが、やめておいた。だって私のキャラじゃないもん。
ナイス希美、理性の勝利。 希美、グッジョブ!



7 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時03分04秒  


そんなこんなで家族総出で車に乗って田舎へと出発。

出発の前日、飯田さんは、
「辻ぃ〜、休みだからってあんま遊んでばっかじゃダメだぞ?
 ちゃんとダンスの練習もしなきゃだぞ?」
と言っていた。
あの、一応私は過労で倒れたんですけど? 飯田さんはそんな私にまだ
重労働を課すのですか?
そんな考えが頭をよぎったりもしたが、私はそのような素振りをおくびにも出さず、
「わかりました〜。 飯田さん、いつものののことを思ってくれて本当にありがとうです」
と言った。言ってみた。
飯田さんはそんな私をぎゅうっ、と抱きしめて、
「辻はいい子だね〜。そんな辻の教育係になれてカオリ、本当に嬉しいよ〜」
と、ちょっぴり感動していたみたい。

ああ麗しきかな、師弟愛。



8 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時03分58秒  


よっすぃーは、
「ののちゃん、お土産、忘れないでね〜。あ、あたし、ベーグルがいいな〜」
と言っていた。
よっすぃー、ベーグルは東京でも十分食べられるでしょ? それ以前に田舎の
山奥にベーグルが売ってるはずないじゃない。
危なく口が滑りそうになった瞬間、梨華ちゃんが先に口を開いた。
「も〜、よっすぃーってば〜、ベーグルだったらここでも食べられるじゃな〜い。
 あまりののちゃんを困らせるようなこと、言っちゃだめだよ〜」
ナイスフォロー。さすが新曲でセンターに立っただけのことはあるよね。
でも、その重圧のストレスで昔みたいな体型に戻っちゃわないように気をつけてね…
…と、こんなセリフ、私が言える身分ではないのは重々承知の上である。
なぜなら梨華ちゃんの前に私の体重がレッドゾーンに差しかかっているから。
でも、いいじゃん。育ち盛りなんだし。女の子はちょっぴりふっくらしてる方が
可愛いんだよ? もっと痩せろだなんて、そんなこと言うならあの飲茶楼のCMは何なの?
今時娘は1日5食? ふざけないでよね。



9 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時04分43秒  


…なんだか私、さっきから変なことばっかり言ってる。
芸能界にも慣れて、少し擦れてきているのかな。
こんなことばっか言ってるから『辻は腹黒い』だとか
『モーニングの楽太郎』だとか言われるんだよね。
気をつけようっと。

そんなわけでだんだんと緑が増えてくる窓の外でも眺めてみよう。
東京で育った私にはやはり新鮮な光景。
ふと、その感動を隣りに座っているお姉ちゃんにも伝えようと
顔を向けてみると、

『ポチポチポチッ!ポチポチポチッ!』

うわーお!早撃ちマック!
お姉ちゃんはものすごい速さで携帯を打っている。
何もこんなところまで来てメールなんて送らなくても…
なんてことを考えていると、

「あ―――ッッ!!」

お姉ちゃんが奇声を上げた。



10 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時05分24秒  


なに? ま、まさか暑さのせいで気でも触れたんじゃないでしょうね?
と、心配して顔を覗きこんでみたのだが、

「うわー、圏外に入ってやんの! これだから田舎は…」

…どうやらそんなことは心配ご無用(not 怪傑熟女)であったようだ。
ふと、私も自分の携帯電話を覗いてみる。
…やっぱりその液晶には『圏外』の文字が。
ああ、そっか。 もうこんな山奥に来たんだね。
じゃあ私もあいぼんと連絡とったりとかできないや。
もう1度携帯を覗きこんで、あの着メロ、しばらく聞けないんだなあ…
なんて思ったりしてると少しだけ寂しさがこみ上げてきた。
あのアンパンマンのテーマともちょっとの間お別れ…

…あ、別にその着メロは安倍さんの顔を意識して選んだわけじゃないよ、一応。



11 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時06分03秒  


そんな感じで私は少しだけ涙がこぼれそうになり、
それを防ごうとちょっとだけ上を向こうとする。
その、上を向くまでの視界の通過点にお姉ちゃんの顔が入った。
…何でこんなところまで来てガングロメイクを……
何故か私の涙は一瞬にして乾いてしまった。
あれ? 私ってばドライ・アイ? 現代病に悩む若者の1人なのかしら?
…まあしょうがないよね。こんな年で一人前の大人並に働いていたら
そんな病気にもかかるってもんです。
そういうわけだからもっと給料上げてくれよ! 頼むぜつんく!

…と、またしても14歳らしからぬ考えを起こしてしまう私だったのだけれど、
それは心の奥底にしまうことにしたのでした。

…理由は聞くな! 聞かないでくれ!



12 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時07分08秒  


そうこうしているうちに車が止まった。
どうやら目的地に着いたみたい。

「ここにしばらくお泊りするんだよ」

お父さんが言った。
そこにあるのは木造のちょっと古めかしい、
まるで日本昔話にでも出てくるような家。

「ここはね、お父さんの親戚の人が持ってた家なんだけどね、今は誰も住んでいないんだ。
 近くに住むおばあちゃんがたまにお掃除をしてくれてるんだよ」
「ふーん…」

とりあえずお姉ちゃんと2人で家の周りを見てみることにした。
やっぱりちょっと古ぼけた感がいなめない。けど、私もお姉ちゃんも
初めて見るそんな家にちょっぴりわくわくしていた。



13 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時07分55秒  


「ねえ希美、ちょっと写真とろうよ、写真」

お姉ちゃんが家をバックにして、あの一昔前に流行ったギャルのポーズをしている。
それ、今時流行らないよ、それじゃあ保田さんと同じだよ。
そう言いそうになったけど、何故かお姉ちゃんは保田さんと一緒にされると
ものすごく怒るので言わないでおいた。
ついでに『ガングロギャルと古い家』という組み合わせも、これほどミスマッチなものは
無いんじゃないか、それは前衛芸術としてもちょっとアレなんじゃないか、と思ったので、

「ごめーん、カメラ持ってくるの忘れちゃったー」

と言ってごまかすことにした。本当は私のポシェットには常に
使い捨てカメラが常備されているんだけど。



14 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時08分32秒  


残念がるお姉ちゃんをなだめながら家の周辺を見ていると、
なにやら離れたところで子供達がこちらを指差していた。
近くに住んでる子かな?そう思い、そちらを見ていると、
どうやら向こうも気付いたみたいだ。彼等はお姉ちゃんを指差したまま、

「うわぁ―――!! 助けてぇ―――!! 食われるぅ―――!!!」

と叫び、一目散に逃げて行く。
私が恐る恐るお姉ちゃんの方を向いて見ると、

「くぅっ……!」

やはりプルプルと身を震わせていた。



15 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時09分12秒  


「……私、顔洗ってくる……」
「うん…」

そしてお姉ちゃんは水道の方へのろのろと歩いていく。さも残念そうに。
お姉ちゃん、そんなにゆっくり歩いてもあまり意味が無いよ?
うさぎと競争している亀じゃあないのよ? もしかして牛歩戦術?
私はそんなお姉ちゃんを後押しすべく、
「速攻!」と、赤木キャプテンの真似をしそうになったが、ここはあえて変化球で

「ディ――フェンス! ディ――フェンス!」

と、ベンチの眼鏡君をチョイスしてみた。しかしお姉ちゃんは
それが気に入らなかったのか、

「うっせーよ! 何わけのわかんねーこと言ってんだよ!」

と怒って行ってしまった。
しまった……お姉ちゃんは DEAR BOYS 派だったか……
失敗失敗……



16 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時10分03秒  


お姉ちゃんが水道でばしゃばしゃと顔を洗っている。
流れる泡を覗いてみると、やっぱりというかなんというか。
泡が真っ黒に染まっている。
その泡の黒さに何故か私はそら恐ろしさを感じて
その場を立ち去ることに決めた。

ちょっと家の中も見てみようかな。
これから何日かの間暮らす場所だしね。
ん、2階もあるみたいだ。
私は興味深々とばかりにその階段を上っていった。



17 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時10分40秒  


たどり着いた先はうっすらと暗い天井裏。
どうやら物置きとして使われてるらしく、埃がいっぱい溜まっている。
天窓から見える星空を眺めながら眠りにつく、なんていう生活を
ちょっと期待していたために少しだけがっかりしたが、それでも何か興味を
引くものが無いか、と見て回った。

…あれ? なんだ?
物陰でゴソゴソと何やら動いている。
私はそーっと近づき、観察する。

…あっ! これは!
思わず私はパン!と両手でそれをつかむと
急いで1階へと降りていった。



18 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時11分25秒  


「お姉ちゃん!お姉ちゃん!大発見!」

私はおおはしゃぎでお姉ちゃんの元へ走っていった。
その顔はきっと『となりのトトロ』に出て来るメイのごとく
歯が剥き出しになっていたに違いない。八重歯がキラリ☆
それか、もし他に例えるとしたら……そう、久本雅美と柴田理恵を足して
鍋で煮込んでその後醗酵させたような感じかもしれない。

「ん〜? なに〜?」

お姉ちゃんもちょうど洗顔が終わったところらしく、
あの黒い顔が真っ白になっていた。
グッドタイミング!



19 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時12分01秒  


「ねえねえ! 天井裏で見つけた! 文子Mk.U!」
「…は?」

何が何やら分からないといったお姉ちゃんに
さっき捕まえたアレを見せるため、ずっと合わせていた
手のひらを開いた。

「あ…」

予想通りの展開というか何というか、開いた手のひらは
ただ真っ黒に染まっているだけで、そこには何もいなかった。

「…ねぇ、まさか…」
「…うん、さっき天井裏にまっくろくろす…」

バキィッ!!

お姉ちゃんのグーパンチが私の横っ面にクリティカル・ヒット。
その威力たるや、『魔界塔士SaGa』でラスボスを瞬殺する
チェーンソーのごとしであった。
私は吹っ飛びながら、

「だって…エゥーゴ版とティターンズ版って感じで…ちょうどいいじゃん…」

などというようなことを考えていた。



20 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時12分48秒  


しょうがない。文子Mk.Uとするのは諦めて、あれを
『リカちゃん(モーニング・ブラック)』と呼ぶことにしよう。

…そういえば。梨華ちゃんで思い出した。
私が脱退するという噂が書かれていた掲示板で
梨華ちゃんの噂も見たのだった。

するよ、しないよ、ディスカッション。
それは梨華ちゃんのカリスマ性が生み出した壮大なファンタジー。
まさにRika's Magic 。それには仰木マジックもかなわない。
梨華ちゃんならマック鈴木でもブレイクさせることができるかもしれない。
梨華ちゃん、これからもずっとファンのみんなに夢を与え続けていってね。
そう願わずにはいられないのだった。

ちなみに私がビューティー派だというのは梨華ちゃんには内緒である。



21 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時13分30秒  


それはいいとして、またお姉ちゃんの機嫌を損ねてしまった。
マズッたなあ。なんだかその場にいるのがちょっとだけ都合が悪くなって、
家の外へと出ることにした。

もう外は日が暮れかかっていて、虫の鳴き声が聞こえてきている。
あれは…なんの虫だろう…。
その音の方へと耳を傾ける。
東京にいたときはこんなの聞いたことが無かったなあ。
そんな虫の音に耳を澄ましていると、少し離れたところに
田んぼがあって、そこに誰かがいるのに気が付いた。
女の子? この辺に住んでる子かな?
…でも、なんだかどっかで見たことがあるような気がする。
ちょっと興味が湧いて、近づいてみることにした。



22 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時14分05秒  


え…? 嘘、なんで…?
私はその子に話しかける。

「…あいぼん? なんでこんなところにいるの?」
「…え?」

その子も私に気付いたらしく、こちらに顔を向けた。
どう見てもあいぼんだ。なぜ? あいぼんは今ごろ東京に
いるはずでしょ?

「…あの…えっと…」
「あ…あの…」
「ええっと……あいぼんって…何…?」
「あ…」

…やっぱりあいぼんじゃない。だって、あいぼんは私と話すとき、
ちょっとだけだけど、関西弁のイントネーションが混ざるもん。
その子の話し方はなんて言うか……あまりなまりとかが無いっていうか…
そんな話し方だった。



23 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時14分53秒  


「あの……ごめんなさい……なんか私の友達にそっくりだったから……」
「…そう」
「ええと……この辺に住んでるの?」
「うん、そうだよ」
「あ…あのね、私、ちょっと夏休みってことで…東京から来て…」
「…うん」
「ここに何日かいるんだ…」
「…そっか」
「それで……ええと……」
「あのさ、さっき言ってたあいぼんって…友達の名前?」
「あ…えーと…なんていうか…ニックネームみたいな?…そんな感じ」
「ふうん…」
「……」
「…ねえ、もし暇だったらさ、明日、一緒に遊ばない?」
「え…? ……あ、うん…いいよ…」
「…よかったぁ。わたしもね、ちょっと暇だったっていうか…ね? よし、じゃあ約束!
 明日、またここに来てね!」
「…うん…………あ、そだ…名前…」
「…わたし? わたしはねぇ……じゃああいぼんでいいよ。わたし、あなたの友達に
 似てるんでしょ? それにそのあいぼんって名前、何だか気に入っちゃった」
「あ……そう…? じゃあ…私は希美っていうから…うん、普段は のの、とか呼ばれてるから…」
「ののちゃんだね? じゃ、また明日!」
「うん、じゃあね…」

その子は走って行ってしまった。



24 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時15分24秒  


なんだか…変な感じ。
あいぼんにそっくり、というより見た目はほとんどそのまんまなんだけど…
ちょっとだけ……なんていうんだろう……
こう…垢抜けてない、っていえばいいのかな?
でも…すぐに打ち解けることができるようなところは……やっぱりあいぼんで……

…よくわかんないや。

明日になってみればまた何かわかるかもね。



25 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時16分07秒  


外はもうすっかり暗くなっていて、
私はちょっと急いで家の中に入った。

「…あれ? 希美、どこに行ってたの?」
「ん…ちょっとお散歩…」
「ふ〜ん。…あ、もうご飯できてるってよ」
「…わかった」

そしてお父さん、お母さん、お姉ちゃんと4人でご飯を食べて。
うん、こういうのもなんだかひさしぶり。



26 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時17分00秒  


なんだかおなかいっぱいになったら眠くなってきちゃった。
お姉ちゃんと一緒に、初めて見る蚊帳の中のお布団に横になる。

「ん〜…あたし、眠くなってきちゃった〜…」

そう言うとお姉ちゃんはもう一足先に眠ってしまったみたい。
私はその横顔を見ながら、

「…お姉ちゃんも普通にお化粧してれば結構きれいなのになあ…」

なんてことを考えながら夢の世界へ旅立っていった。


『ののちゃん、ゆっくりしていってね』


私の意識が途切れる前、そんな声が聞こえたような気がするけれど、

でもそれは、きっと、気のせい。




27 名前 : いちにちめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時17分53秒  



その日、初めてあいぼんに会ったときの夢を見た。




28 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時18分53秒  


「ん〜…」

…朝。
今、何時だろう…
手探りで時計を探す。
実は結構朝は苦手だったりするのだ。
小学生の頃、何度ラジオ体操をさぼって怒られたことか…
やっべ、ちょっとイヤなこと思いだしちゃったよ…



29 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時19分47秒  


「んむぅ〜〜…」

お姉ちゃんも目を覚ましたみたい。
同じ屋根の下で暮らしているのにその素顔をじっくりみたことは
あまり無い。だって、いっつもあの真っ黒な化粧してんだもん。
そんなわけで、今日はその素顔をじっくり拝見。
昨日はなんとなく見れなかったし。

…う〜ん…白い…

それ以外に感想が無いのかと言われると…無いんだよ。
だって、やっぱ姉妹だし…結構顔は似てるほうだし…
……あ、でも眉毛はきちんと描いたほうがいいと思うよ……
寝てる間にこすっちゃったのかもしんないけど…
今のお姉ちゃん、いつもとは違う意味で恐いよ……



30 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時21分02秒  


「希美も文子も、朝ご飯できてるよ〜」

お母さんが呼んでいる。

「うぁ〜〜、あたし、いらね〜〜」

お姉ちゃんはそう言うと、また布団をかぶって横になった。
まあ…休みの日は昼過ぎまで寝てる人だからしょうがないけど…
それでもこういうところに来たときぐらいは早起きしても
いいんでないかい?

…などと言っていてもしょうがないので、さっさと
ご飯が用意されてる居間へ行くことにした。



31 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時21分36秒  


うぅ……
お姉ちゃんのこと、あまり言えないや…
いつもはこれでもか、ってくらい朝ご飯食べて…
それでも学校の2時間目が始まるころにはおなかがすいてくるくらいなのに…
何故だか今日は食欲がまったく湧かない。
…ま、まさか! お姉ちゃんと一緒にサラリーマンの霊もついてきて…
それで呪いを…!?

…んなわけないか。



32 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時22分11秒  


しかたなく私はデザートに用意されたスイカと、そして
いつでも欠かすことのないアロエヨーグルト、
それだけを口にした。

…食欲無いとかいいながら、スイカ、結構食べちゃった。
お姉ちゃんの分も。

いつまでも寝てるのが悪いんだからね。



33 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時22分41秒  


「行ってきまーーす」

私は朝食を終えて一休みすると早々に出かけることにした。
どうせ家に居てもお姉ちゃんは寝てばっかだし
お父さんもお母さんも縁側でうちわをぱたぱたあおいでいるだけだし。

昨日、あいぼんと会ったあの田んぼの所へ行くと
あいぼんはもうすでにそこへ来ていて
私に向かって手を振っていた。

「おはよー、ののちゃん!」
「うん、おはよー」
「昨日はよく眠れた?」
「うん、なんかいつもよりずっと早い時間に眠っちゃった」
「そっかー」

私達はそんなとりとめもない話をしながら歩いてゆく。



34 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時23分21秒  


「ねえ、これからどっか行くの?」
「うん、ええと…ののちゃんは東京から来たんだよね?
 それじゃ、わたしがいつも遊んでるところに行こう!
 こっちの森なんだけど…」

私はあいぼんが案内するままに森の奥へと進んで行った。



35 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時24分02秒  


…すごい。東京にいるときもセミの声は聞いたことが
あるけれど……でもここはそんなもんじゃなくて
360度からそれが降りそそいでくる。

「うわぁ…」

私は思わずそう声を漏らし、まるで昔持っていた
首がぐるぐる動く貯金箱のように首を動かしていた。
…いや、さすがに一回転したりはしてないけどね。



36 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時24分42秒  


そうして自然のシャワーを浴びながら歩いて。
ふと近くの木を見ると、一匹のセミが止まっていた。

「よーし…」

私は初めて見る本物のセミに興奮し、
それを捕まえようと静かに近づいていく。

抜き足、差し足、忍び足……今だ!
そう思い手を伸ばした瞬間。

「だめぇっ!!」

あいぼんが大声をあげた。

ピシャッ
私はセミにおしっこをかけられてその場に立ち尽くす。

「あ〜いぼ〜〜ん…」
「あっ…ごめん……でもね、セミって…大人になってから一週間しか
 生きられないんだ……だから……」
「…そっか…そだね…。 ……でもね、もうちょっと早く……」
「あ、あはは……で、でもほら……セミのおしっこって全然きたなくないから……大丈夫…」
「…うん」



37 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時25分25秒  


…まあそのことは諦めるとしよう。
すぐに服も乾いたしね。

やがて森を抜け、民家が立ち並ぶ辺りへと出る。

そして私は…歩きながら…今朝の食事を後悔しはじめていた…。
この感覚は……ヤバイ……
その時、思いっきりおなかから音がした。

『ぎゅるるるるるぅぅ〜〜〜…』

…大ピンチだ!
私はいつかの『モー。たい』で冗談で言ったセリフが
本気で頭の中を駆け巡っていた。まさに、モー。たいへんでした!
っていうか今、大変です!

「ね、ねえ……あいぼん……ちょ、ちょっと……トイレ……」



38 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時26分20秒  


私は近くの民家へ走り…いや、競歩に近い形で急ぎ…
そしてトイレに駆け込んだ。

「ううぅ〜〜〜…」

…なんたる大失態。 辻希美、一生の不覚。
アイドルとして…いや、その前に1人の女の子としてこんな…
…そ、そうだ!

「…ファ、ファンタジー…するよ…?」

…無理! 梨華ちゃんじゃないって! んなもん出ないって!
そ、そうよ! こんなときは、歌でも歌って…

〜♪の、のんのんのんのん……のんすとっぷ……

しまった…! 選曲ミス…! いくら自分の歌とはいえ…
よ、よし、ここはプッチモニの…

〜♪とまんな〜〜い…

保田さんっ! 私に何か恨みでもっ!?



39 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時27分19秒  


しばらくの間、私は1人で格闘して…
…そしてやっと外で待つあいぼんのところへ戻った。

「…ののちゃん…大丈夫…?」
「…うん……」
「でも…まだ具合悪そう…」
「へへ…大丈夫…」

あいぼんが心配そうな顔で私を見ている。
私はきっと今『ゲッソリ』という言葉が
さぞかしお似合いだっただろう。
ははは……ダイエット、効果あるかな〜♪…なんて……

『ねえよ!』

矢口さんのツッコミが聞こえたような気がした。



40 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時28分11秒  


少しして、さっきのお家でもらったおなかの薬が効いてきて、
ようやく落ちつくことができた。
けれど、その頃にはもう外は日が暮れかかっていて。

「う〜ん…今日は私のせいで……ごめん、あまり遊べなかったね…」
「あ、いや、そんなことないよ? 楽しかったよ?」
「でも…ええと……じゃあもしよかったら…明日も…一緒に遊べないかな…?」
「うん! いいよ!」
「よかった……じゃあ明日、また今朝と同じところで…」
「わかった! それじゃあね!」

そう言ってあいぼんはまた昨日のように走ってゆく。
私はそれを見送り、そして家へと戻った。



41 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時28分51秒  


家の中へ入ると、
「希美、おそかったねー。お姉ちゃん、さきにご飯食べちゃったよ?」
お母さんが言った。

私はちょっと遅れて夕食をとり、お布団が敷いてある部屋へと戻る。

お姉ちゃん…アンタ、また寝てんのかい…
…そうだね、お姉ちゃん、まだまだ身長伸びるかもね。
寝る子は育つっていうしね。
そしたら飯田さんとデカモニでも作ってみる?

なんてことを考えながら布団の上に横になると、
すぐに睡魔が襲ってきた。
うん…今日は、結構走り回ったし……いろんな意味で。

そして私は夢の世界へと旅立ってゆく。


『ののちゃん、きょうはたのしかったね』


私の視界が閉じる前、そんな声が聞こえたような気がするけれど、

でもそれは、きっと、そらみみ。




42 名前 : ふつかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時29分55秒  



その日、初めてあいぼんとお買い物に行ったときの夢を見た。




43 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時30分47秒  


「…むにゃ?」

…朝。

「んんん〜〜〜……」

大きく伸びをする。
お姉ちゃんはまだとなりで眠っている。

「2人ともー、ご飯出来てるわよー」

お母さんの声。

「うぁ〜〜、あたし、いらね〜〜」

お姉ちゃん…昨日とおんなじこと言ってるね…

私は朝食をとるために居間へと向かった。



44 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時31分50秒  


今日はいつも通りに食欲がある。
うん、もしかしたら昨日もらった薬が効いてるのかも。
私は同じ過ちを繰り返さないためにも、ちゃんとしたご飯を
しっかり食べ、スイカは控えておいた。
…でもアロエヨーグルトは欠かさないんだけどね。



45 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時32分23秒  


「行ってきまーーす!」

私は朝食後、一休みすると、昨日のようにあの場所へと向かった。

「おはよー」
「うん、おはよー」

あいぼんも昨日のようにそこで手を振っていて。

「ねえ、今日はどこに行くの?」
「えーと、今日はねぇ…じゃあこの近くに川があるからそこに行ってみよう!」

私は手をひかれ川へと向かうことに。



46 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時36分03秒  


2人で手を繋いでやってきた川は
東京でいつも見ている川とは全く違うもので。
サラサラという心地よい川音といいにおいの風に
心は今日の青空のように晴れ上がって。
きっと私は昨日森の中に入ったときと同じような顔になっていたのだろう。



47 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時37分17秒  


私はそのキラキラと太陽の光を反射させている川面に
もっと近づいてみたいという衝動に駆られた。

「危ないから気をつけてね…」
「大丈夫大丈夫…」

そーっと。そーっと。
慎重に斜面を降りてゆく。
もう少し。そう思ったとき、

ズルッ!

足が滑った。

私の体はあっという間に川へと放りだされる。

…深い!
上から見たときは川底が見えていたというのに!

私の足はまったくその底に触れることは無かった。



48 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時37分54秒  


必死にもがく私の元へ
やはり必死な形相で近づいてくるあいぼんがいた。

「早く!つかまって!」

そういって手を伸ばすあいぼん。
私はそれに捕まろうとするのだけれど。
けれど川の流れは予想以上に速くって。
一所懸命水を掻いているにも関わらず私は、
ゆっくりと、ゆっくりと、川下の方へ流されてゆく。
そして夏だというのに川の水はまだまだ全然冷たくて。
なんだかつま先の感覚が無くなってきたみたい。

もうだめかな。

そう思ったとき。

「やった!」

あいぼんの手と私の手とが繋がった。



49 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時38分33秒  


あいぼんが私を上へと引きあげようとする。
あいぼん大丈夫? 私、結構重いよ?
もしかしたら私の重さであいぼんまで川に引きずりこまれちゃうかもよ?
ああ、こんなことならもうちょっとダイエットしておくんだったね。

けれど、そんな心配は必要無かったみたい。

私の体はどんどん岸へと上っていった。
あいぼん、すごい、力持ち。
どっからそんな力が湧いてくるの?
まるで、何人かがいっせいに私の手を引っ張っているみたい。


いや、実際、そんな気がしたんだ。



50 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時39分09秒  


「はぁ…はぁ…」
「…だから気をつけてっていったじゃない…」
「はぁ…はぁ……うん……ごめん……」
「でもよかった…」
「……ありがとう」
「いいよ…」

私達はしばらくお互いの顔をみつめあって。
どっちが先だったかわかんないけれど、
どうしてなのかもわかんないけれど、
笑った。



51 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時39分44秒  


「なんだか私、本当に流されていっちゃうかと思った…このまま川を
 どんぶらこー、どんぶらこーって」
「そしたら、川で洗濯をしていたおばあさんに拾われたりして」
「うん。それでついた名前がもも太郎ならぬのの太郎だったりして」
「あははは…」
「うふふふ…」

びしょぬれになってしまった髪の毛も服も全然気にならなかった。
ただ2人で笑って。 お互い草の上に寝転がって。
濡れた顔にくっつく草もかまわない。
むしろ、その草の香りが私にとって心地よかった。



52 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時40分18秒  


そして私達は野山を駆けまわったり。
走り疲れたら草の上に座ってお話したり。
本当に楽しかった。
でもね、楽しい時間っていうのはあっという間に過ぎてゆくものなんだ。

気がつくと服はすっかり乾いていて。
空はうっすらと紫色になっていた。
お互い離れるのがちょっぴり寂しくて。
でも、今日はもうお別れの時間。

このまま時が止まってしまえば――

もしかしたらその言葉はこんなときに使うものなのかもしれないね。



53 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時40分53秒  


「じゃあ…また明日…」
「うん…………あ、そうだ。 明日ね、ののちゃんに見せたいものがあるんだ」
「えっ? なに?」
「それはまだ…ひみつ。 それでね、明日はね、今日みたいに朝じゃなくて…
 うん、ちょうど今ぐらいの時間。 そのくらいの時間にここに来て?」
「え…なんで?」
「いいから。 だめかな…?」
「あ、全然いいよ。 じゃあ私、明日の今ぐらいの時間にここに来るよ」
「じゃあ約束ね!」
「うん!」

そして私は走ってゆくあいぼんを見送り、家へと戻った。



54 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時42分49秒  


家の中に入ると、やっぱりお姉ちゃんは先にご飯を食べ終わっていて、
私はみんなよりちょっと遅い夕食をとった。
布団が敷かれている部屋に来ると、
やっぱりお姉ちゃんは先に眠っていた。

「…ふぁ〜……希美、今帰ってきたの〜?」
「うん、そうだけど…お姉ちゃん、ずっと寝てたの?」
「うん〜、1日寝てたよ〜」
「はぁ…」

寝正月ならぬ寝夏休み。
ここまでくるとある意味すごい。
お姉ちゃん、そのまま布団とくっついちゃわないようにね。
そんなことを考えながら私も横に寝転がると、すぐに眠気が襲ってきた。

そして夢の世界へ旅立ってゆく。


『ののちゃん、あしたでおわかれだね』


私が夢の世界への第1歩を踏み出そうとしたとき、そんな声が聞こえてきたような気がしたけれど、

でもそれは、きっと、かんちがい?




55 名前 : みっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時43分19秒  



その日、初めてあいぼんと一緒にコンサートをやった時の夢をみた。




56 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時44分07秒  


「…ん」

…朝だ。
となりにはお姉ちゃんが眠っている。

「ご飯できてるわよー」

お母さんの声。

「うぁ〜〜、あたし、いらね〜〜」

お姉ちゃんが応える。

今日は私も、朝ご飯、いらないや。



57 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時44分50秒  


私はぼーっとした顔で縁側に座っていた。
お姉ちゃんはいまだに蚊帳の中で眠り続け、
お父さんとお母さんはうちわをぱたぱたとあおいでいる。

…なんだか時間が長い…

「希美、スイカ食べる?」

お母さんが聞いてきた。

「うん」

私も応える。

きれいに切り分けられたスイカをしゃくしゃくと食べながら
私はあいぼんのことを考えていた。
なんで夕方なんだろう?
もしかして、花火とかするのかな?

早く、夕方、こないかな。



58 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時45分22秒  


私はずっと空を眺めていた。
だんだんと太陽が西へと動いてゆくのを眺めていた。

まだかなあ。


そして、空はゆっくりと薄紫色に変わっていって。

「行ってきまーーす!!」

私は外へと飛び出した。



59 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時45分55秒  


ちょっと足元に気を付けながら、あの場所へと急ぐ。

やっぱりそこにあいぼんはいて。
私にむかって手を振っていた。
昨日と違うのは太陽がもう山の向こうに隠れてるところ。

「あいぼん、待った?」
「ううん、全然」
「よかったー」
「じゃあ、行こうか」
「行くってどこに?」
「いいからいいから」

私はあいぼんに手を引かれ、
暗い夜道を歩いてゆく。
森とも川とも違う方向。
あいぼん、大丈夫? 帰り道、忘れちゃわないでね。



60 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時48分16秒  


あいぼんに手を引かれてやってきたそこは、
見渡す限りの大草原。
すごいね、どこまでも続いているみたいだね。
でも、ここで何をするの?

「ねえ、見せたいものって…」
「んーとねぇ…わたしの、ともだち」
「ともだち?」
「うん、そうだよ」
「どこ?」
「見て…」

そうあいぼんが言うと、いっせいに草原が光に包まれた。



61 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時49分01秒  


「すごい…これ…」

蛍。

空を飛ぶ蛍達はみんな輝いていて。

「雪みたい…」

そう、まるで真夏の草原に降りそそぐ雪のようだった。

私はしばらくその光景に見とれていて。
そしてあいぼんの方を向く。

「あいぼんのともだちって…」
「そうだよ。みんな、わたしの、ともだち」
「すごいね…」
「うん…」



62 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時49分41秒  


永遠とも思える時間が流れていって。
あいぼんが私に言った。

「ねえ、わたしね、ののちゃんとあそべて本当に楽しかった」
「…私もだよ」
「わたしは…ののちゃんと…ともだちになれたかな?」
「うん…友達だよ……あいぼんは私の、友達だよ…」

私はあいぼんを抱きしめた。
そうしないとあいぼんがどっか行ってしまいそうで。
このまま光の中に溶けていってしまいそうで。
思いっきり、思いっきり、抱きしめた。



63 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時50分14秒  


そしてあいぼんは

ののちゃん、ありがとう

そう言ったかと思うと

私の腕の中から

ふわぁって、

ふわぁって、

きえていった



64 名前 : よっかめ。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時50分54秒  


あいぼん…どこ…?

ねえ、ありがとうって…なに…?

私、何にもしてないよ…?

何にもあいぼんにしてあげてないよ…?

ねえ…どこにいったの…?

ねえ…へんじしてよ…

ねえ…

ねえってば…

あいぼん…

あいぼん…





65 名前 : さいしゅうび。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時52分10秒  



「…あいぼんっ!!」

…あれ?

そこは見なれた蚊帳の中。

私はお布団の上にねころがっていて。

となりにお姉ちゃんはいなかった。

「…あいぼん?」

私はまだ何がなんだかわからなくって。

ただ、ぼーっと自分の両腕だけを見つめていた。



66 名前 : さいしゅうび。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時53分00秒  


「あー、希美ってば、やっと起きたー?」

お姉ちゃんがやってくる。

「まったく…もう出発する時間だよ? いつまで寝てんの?」
「あいぼんは…」
「…は?」
「あいぼん、どこいったの?」
「あいぼん? あいぼんって…加護亜依ちゃんのこと? なんでこんなところにいるの?
 あの子、今ごろ東京にいるはずでしょ?」
「そうじゃなくって……私、昨日の夜、あいぼんと外で……」
「はぁ? あんた昨日の夜はずっと寝てたじゃない」
「うそ……私、たしかに、あいぼんと……蛍を……」
「…蛍? …ああ、そういえば昨日の夜、あんたの周りでずっと蛍飛んでたよ。一匹だけ。
 何だかきれいだったからそのまんまにしといたんだけど…どこ行ったのかな」
「え…」

お姉ちゃんが私の布団の回りを見ると枕元に蛍が一匹いた。
けれどその蛍は、もう二度と、動くことは無かった。



67 名前 : さいしゅうび。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時53分36秒  


私はその蛍を両手で抱いて、泣いた。

声をあげて、わんわん泣いた。

足つぼを押されて痛くて泣いたときよりも

やきそばを食べれなくて悔しくて泣いたときよりも

ずっと、ずっと、いっぱい、泣いた。

お父さんとお母さんとお姉ちゃんにいくらなだめられても涙が止まることはなくて

もう体の中の水分が全部出ちゃうんじゃないかと思っても涙が止まることはなくて

ずっと、ずっと、泣き続けた。

さんざん泣き続けて

それでも涙は止まることはなかったけれど

私はその蛍を両手でそっと抱きしめたまま

こわれてしまわないようにそっと抱きしめたまま

あの場所に行って

初めてあいぼんと出会ったあの場所に行って

お墓をつくった。




68 名前 : さいしゅうび。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時54分10秒  

 



69 名前 : さいしゅうび。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時54分57秒  


「さ、もう出るよ」

お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、先に車に乗っていて。
私は一番最後に車の中に入った。

そして私がドアを閉めようとしたとき。


『ののちゃん、ありがとう』


そんな声が聞こえたのはきっと

気のせいでも、そらみみでも、かんちがいでも、ない。




70 名前 : _   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時55分48秒  

 



71 名前 : _   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時56分57秒  


「ただいま帰りましたぁ」

東京に戻った次の日、私はメンバーのみんなに会いに行った。

「おう、おかえりー。どうだったー?」
「ええと…楽しかったです」
「ふ〜ん、そりゃよかったねぇ。 …あれ? 辻? あんた、目が脹れてるよ? 
 …あ、カオリ、当ててみせようか。 辻、向こうで友達になった子がいてお別れすんの
 さみしくて昨日泣いちゃったんでしょ。違う?」
「あ…えーと…それは…」
「やっぱりそうだ〜、そうなんでしょ〜」
「…ん〜と……」
「あー、のの、そんな友達できたのかぁ。なんかうち、ちょっぴりさみしいなぁ」
「……あいぼん」
「ん? どしたの? …うわっ…ちょっと…のの…」

あいぼんも、もうひとりのあいぼんも、ののの友達だよ。

「ちょ、ちょっと…こんなところで…はずかしいって…」

2人とも、とっても、とっても、大切な、ののの友達だよ。



72 名前 : _   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時57分40秒  

 



73 名前 : _   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時58分27秒  



私は、短かったあの夏を

もうひとりのあいぼんとすごしたあの夏を

モーニング娘。になってから初めて本当の14歳にもどったあの夏を



きっと、わすれない。




74 名前 : _   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時59分03秒  

 
 
 



75 名前 : ある、晴れた空の日に。   投稿日 : 2001年08月10日(金)00時59分55秒  



      「ねえ、あのね」


      「うん、なあに?」


「わたしたち、ずっと、ともだちでいようね」


    「うん、ともだちでいよう」


       「やくそくだよ」


       「うん、やくそく」




76 名前 : ある、晴れた空の日に。   投稿日 : 2001年08月10日(金)01時00分26秒  


        〜 Fin 〜



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