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ブラック・ヤッスー

 
216 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時17分47秒

カツン、カツン、カツン、カツン……

 とある街の隅っこに建っている、もう誰も住んではいないだろうと
思われるボロマンション。その一室へ向けて複数の足音が近づいていた。

「……ここでいいんだな?」
そのうちのスラリと背の高く、スーツに身を包んだ女が口を開く。

「ああ、確かに」
隣りに立っている、初めに言葉を発した女とは正反対の小柄な女が
それに応えた。しかし、その口が閉じる前に背の高い女はやや乱暴な、
お世辞にも丁寧とはいえない調子でドアをノックしていた。

「……開いてるよ」

一拍間をおいて、ドアの内側からけだるそうな声が返ってきた。
 
217 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時18分49秒

「どちらさんで?」

部屋の主が先程と変わらない低いトーンで
急な訪問者に問い掛ける。
年の頃は二十代から三十代、若いとも老けてるとも
見ることができるその顔には、しかし間違っても
歓迎という言葉とは無縁の表情が浮かんでいた。

「アンタがヤッスー?」
背の高い女が口を開く。
「…そう呼ばれることもあるね」
ヤッスーと呼ばれたその女は、フン、と軽く鼻で溜め息をつき、
面倒臭そうに答えた。

「…で、お宅らはどこのどなた様で、ここに何の用があっていらっしゃったんで?」
「ああ、これは失礼した。我々はアップフロントエージェンシー…まあアンタも
 知ってるだろう、そこの者でね、今日は仕事の依頼をしに来たわけだ。
 …どうぞ、入って」

背の高い女が外へ声をかけると、おどおどとした様子で
一人の少女――いや、少女の殻を脱皮しかけていると言った方が
いいだろうか――が部屋の中へと入ってきた。
 
218 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時20分44秒

背の高い女が、少女の肩に軽く手を回し、話を続ける。

「彼女…石川梨華といってね、今うちで売りだし中のアイドルなんだ。
 アンタもテレビで見たことがあるだろう?」
「…さあ? 知らないね」
「…ふん、まあいいわ。それで、今度のシングル発売と同時に武道館で
 コンサートをやってブレイクさせようと会社の方が企てたわけなんだけど…
 なんせ彼女、生来の上がり症でねえ。心の病気というかなんというか…
 ステージに立つと声が出せないようになっちまったわけだ。
 …で、聞くところによるとアンタ、どんな声でもまったく本人と聞き分けが
 つかないほどに唄えるそうじゃないか。そんなわけで、上の命令で
 アンタに仕事を依頼しに来たというわけ」

「…それはアタシに、その娘の代わりに歌を唄えということかい?」
梨華の顔を一度、ジロリと睨み、ヤッスーが言った。
その視線を受けた梨華はビクッと肩を震わせ、やや下の方へ目を向ける。
 
219 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時21分26秒

「察しがいいね。その通り、アンタにコンサート当日、彼女の代わりに
 裏のマイクから唄ってもらいたい。…まああたしはわざわざアンタに
 頼まなくても、CDに合わせて口パクをやりゃあいいだろうとも思うんだけど…
 社長だかプロデューサーだかが、それじゃあライブの臨場感は出せないとか
 言い出してねぇ」

「おことわり」
ヤッスーは背の高い女を一瞥し、もう一度軽い溜め息をつくと、
一言だけ言った。

「へぇ? なんでまた?」
「あたしゃチャラチャラしたアイドルの歌なんてこれっぽっちも
 興味が無いし、そんなのに割く時間も勿体無いからね」
「ふーん…ま、そう言うと思ってたけどね」

背の高い女は口元に余裕の笑みを浮かべると、隣りに立っていた
小柄な女に目配せをした。それを受けた女は1つ頷くと、
部屋から出て行き、数分後、もう一人の少女を連れて戻ってきた。

「ちょ…ののッ! なんで…!」

面倒そうに手元のコップを弄んでいたヤッスーの目がそれを見て一変した。
 
220 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時22分04秒

連れてこられたのは、ヤッスーと2人でこのボロマンションに住んでいる、
少女だった。孤独を愛し、めったに人を寄せ付けないヤッスーが何故
この「のの」と呼ばれる少女と一緒に暮らしているのかという話は
また別の機会にしよう。

ヤッスーの姿を見て、またぽろぽろと涙をこぼすのの。
「ひ〜ん……おばちゃんごめんなしゃい……」
「おばちゃん言うなッ!」
「あうぅ……ごめんなしゃいぃ……」

背の高い女がののをチラリと見た。
「この子…いや〜、かわいいねえ。でももし、仕事を引き受けてくれないって
 いうのなら……おい」

その合図を受けると、小柄な女が、のののおなかのポンポンと叩いたり
ぷにぷにとつまんでみたりし始める。

「あぁあぁ〜……やめてくらしゃい、やめてくらしゃい〜……」

「…わ、わかった! 仕事は受ける! だから、だからののには手を出すなッ!!」
「フフ、始めっからそう言えばいいんだよ。 …放してやりな」
 
221 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時22分37秒

「ひ〜ん…こわかったのれすぅ〜……くすん……」
やっと解放されたののが、トテテテと走ってヤッスーの隣りまでくると、
その腕にひっしとしがみつく。
背の高い女はそれを見て、フン、と鼻で笑うとまた口を開いた。

「で、依頼料のことだけど…」
「一億円」
「…高ッ! ちょっと、もう少し安くならないの!?」
「ビタ一文まけるつもりは無いね。それに、次のコンサートは
 そこに居るアイドルの未来を左右するもんなんだろう?
 一億ぐらい安いものじゃないか」

背の高い女が隣りに居る相棒と顔を見合わせる。
そして少し考えた後、腰に手を当て、
「…しょうがない、わかったよ」
大きな溜め息をつき、言った。

「金は今すぐには渡せないから後日振りこむということで…」
「ああ、スイス銀行の方に頼む」
「アンタ、何でそんなとこに口座持ってんのよ…。何? ゴルゴ13の真似?」
「…ほっとけ」
 
222 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時23分16秒

「じゃあ商談成立ってことで…ウチらはこれで失礼するよ。
 …ああ、コンサートはちょうど2週間後だから。それじゃ…」
「……2週間後? …そうか……」
用件を伝え終わると、くるりと背を向け部屋から出ようとする来客達。だが、
「…おい、ちょっと待て」
その背中をヤッスーが呼びとめた。

「…何か?」
「そこの娘…石川梨華だっけ? アンタ、明日からうちに来い」
「えっ…?」
眉を八の字にし、オロオロする梨華と、怪訝な表情になる女大小2人組。

「どうしようっていうんだ?」
小柄な方が訊ねた。

「…仕事はもう私が引き受けたんだ。どのようにそれをこなそうがこっちの勝手だろう?」
「…………」
「それとも何か文句があるとでも?」
「……わかった」
「よし」
 
223 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時24分00秒

今度こそ全ての用件を終え、女達が部屋から出て行こうとする。
背の高い女がドアをくぐろうとしたとき、ののが口を開いた。

「いいらさ〜ん、またおいしいパン焼いてくらさいねぇ〜」
「わかったよ〜。今度は新しいのを作っとくから楽しみにしててね〜」
「いいらさんばいば〜い」
「うん、ののたんばいば〜い」

バタンとドアが閉じられ、部屋の中に沈黙が戻る。
顔がほころんでいるののに、ヤッスーのジト目が向けられた。

「…おい」
「…あっ…えーと……うわぁ〜ん、こわかったれす、こわかったのれすぅ〜…」
「…ポケットから目薬が見えてるよ」
「えっ…!?」

思わず自分のポケットをゴソゴソするのの。

「…ウソ」
ヤッスーが溜め息をつく。
「あ……え、え〜っとぉ……あのぅ……」
「…しょうがない、もう仕事は引き受けちまったんだ…今更断りはしないよ」
「…あー……えへへ……」
「はぁ……」
 
224 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時24分46秒

次の日の朝。

「…お、おはようございま〜す…」
相変わらずオドオドとしながら梨華が訪ねてきた。

「ああ、来たね……それじゃ、始めようか」
「え…? あの…始めるって、何をですか…?」
「決まってるだろ? 特訓だよ、歌の特訓」
「へっ?」
「『へっ?』じゃなくてさ。まだコンサートまでは2週間もあるんだろ?
 だったら充分。今日からコンサート当日まで、みっちり稽古つけてやるから」
「…あ…あの……でも……」
「…それとも何かい? アンタはコンサートさえできればそれで満足?
 大勢のファン前で、ステージに上がって、それでアタシの声に合わせて口パクが
 できりゃあそれで満足するのかい?」
「…そ、そんなこと! ……もちろん、自分の声で…自分の歌を唄いたい…です…。
 …でも……」
「それならよし…じゃあすぐに始めるよ。まずは発声練習でもしとこうかね」
「は、はい…」
 
225 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時25分33秒

その日からヤッスーの猛特訓が始まった。

「リズムが甘い! そんなんでどうするんだ!!」
「お前の声はそれ以上出ないのか? ふざけんな! 死ぬ気で声を張り上げろ!!」
「自分で音程がズレてることに気がつかないの? それでよく歌が唄えるもんだねえ!」

そして今日も、朝から特訓が続けられている。
「…何度同じことを言わせれば気が済むんだ! 本当にやる気があるのか!?」

その言葉に梨華がうつむいた。
「…やっぱり私…ダメです……私なんて……ダメダメなんです……」
「バッカヤロウ!」
「うわぁっ!!」
頬を張り倒され、ズザザと床に転がる梨華。
ヤッスーは梨華に背を向け、近くのテーブルにバン!と手を叩きつける。

ちょうど転がった先にちょこんと座って練習風景を眺めていたののが、
”いる?”と目で言って目薬を差し出した。
梨華も「うん」と頷くと、それを受け取り、2滴、目に差した。
 
226 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時26分08秒

「アタシはねえ、一度引きうけた仕事は必ずやり通すと決めてるんだ!
 例えどんなにお前が弱音を吐こうが…」

そう言って振り向いたヤッスーの目に、涙(目薬)を浮かべている梨華の姿が映った。
「おい…泣いたってアタシは…」
「まぁまぁやすらさん、梨華ちゃんもいっしょうけんめいなんれすから…」
ののが間に入った。梨華もヤッスーに向けて、”だって涙が出ちゃう。女の子だもん”
と、目で訴えかけている。

「チッ……ったくもう……」
「…………」
「というわけれ、あと10回やったらきゅうけいを入れてあげてもいいと思うんれす」
「…しょうがないな……じゃああと10回唄ったら5分間休憩するか……」

(えっ!? あと10回もやるの!? そして休憩はたった5分だけ!?)

今度は本当に涙が出そうになる梨華であった。
 
227 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時26分54秒

その後も、コンサートに向けて特訓が続いた。
どんどん厳しくなってゆくレッスンに、歯を食いしばって耐える梨華。
それでもやはり、その辛さについ泣いてしまうこともある。
その中でも最も涙を流したのは、
「あいたぁ!!」
慌ててタンスの角に足の小指をぶつけてしまったときだった。

連日続くヤッスーのレッスン。時の流れはまるで日めくりカレンダーを
めくってゆくように過ぎていった。いや、実際、ヤッスーの家では
正月に餅屋からサービスで貰った日めくりカレンダーが使用されていた。
毎朝それをめくる係のののは思う。
(これをいっきに10日ぶんくらいガッとめくれたら
 どんなに気持ちのいいことれしょう…)
 
228 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時28分25秒

そしていよいよコンサート前日。
リハーサル代わりである老人ホームの慰問ライブを終えた梨華の肩に
ポン、とヤッスーの手が乗せられた。

「これでもうお前は恐いものは無い…。明日のコンサート、一人で唄うことができるな?」
「はい!!」

気持ちのよい返事に、うんうんと頷くと、ヤッスーは初めて梨華の前で笑顔を見せた。

「……えへへ」
それを見た梨華も、思わず顔をほころばせる。だが、
(…嬉しいけど……でも…その顔、ちょっと恐い…かも)
(やすらさんのえがお……やっぱりこわいのれす……)
そのとき、梨華とののの間で同じ思考がなされていたことは、
きっとヤッスー本人は知る由もないだろう。
 
229 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時29分10秒

コンサート当日。
「念のため」と言われ、舞台の裏にある、スピーカーに通じているマイクの
前へ座らされるヤッスー。その隣りにはやはりちょこん、とののが座っていた。

開始時間が迫る。
大勢の観客と、色とりどりに照らされるステージ。
やがて大歓声とともに舞台の幕が開かれると、そこにはドレスアップした
梨華が一人、立っていた。

静まり返るホール。その静寂を破るように、イントロが流れ出す。
そして、まさに歌が始まろうというそのとき。
梨華の顔が青ざめ、金魚のように口がパクパクと動く。
「…まずい!」
それを見たスタッフが、慌ててヤッスーのところへ走ってきた。

「…梨華が唄えないみたいです! 今マイクのスイッチを入れるんで、お願いします!」
「な…!」
 
230 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時29分45秒

急遽ONにされる目の前のマイク。
ヤッスーは、それを眺め、一瞬何かを考えた風になると、
大きく息を吸いこんだ。

『〜♪オ〜レはジャイア〜ン! ガ〜ッキ大将〜!!』

ただでさえ青くなっていた顔をさらに青くするスタッフ。
予想外の歌声に、ざわつく観客。いや、観客達はそのあまりの酷い声に
全員耳を塞いで身悶えていた。

『〜♪ボゲ〜〜!!』

さらにヤッスーのジャイアンソングが続く。

だがそのとき、歌を聞いていた梨華の表情がハッと我に返った。
 
231 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時30分22秒

「〜♪…お買い物行こう 原宿に♪」

必死な表情になり、自分の歌を唄いだす梨華。
ヤッスーはそれを確認すると、すぐにさっきまでのダミ声をやめて
その後の歌が自然に続くようにハモリのメロディーを唄い、
やはり自然に自分の声をフェードアウトさせていった。

やがて一曲目が終了する。
その歌は、お世辞にも上手いといえるものではなかったが、
梨華の表情には満面の笑顔が浮かんでいた。

その表情を確認するとヤッスーはイスから立ちあがり
ホールの出口へと向かった。

「やすらさん、さいごまで聞かなくていいんれすか?」
「ああ、いいんだよ……もうあの子は大丈夫だから……」
 
232 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時31分16秒

ホールの廊下を歩くヤッスーの下へスタッフが走ってくる。

「おい! や、約束が違うぞ! ほ、報酬は払わないからなっ!」
「フン…」

鼻で一つ笑うと、真っ黒なコートを羽織り、また歩き出す。

舞台への入り口の一つからもう一度梨華の姿が見えた。
その笑顔の中には涙が浮かんでいたが、それが自分の歌を唄いきったことへの
満足感からくるものなのか、ヤッスーへの感謝の念からくるものなのかは
梨華本人以外はわからない。
ただ、目薬ではないということだけは、きっと断言できるだろう。
 
233 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時32分01秒

夕日が真っ赤に空を染めている帰り道。
黒いコートをやや赤く照らされているヤッスーと
ふっくらした頬を真っ赤に照らされているののが家路へとついていた。

「…ん〜…のの、さいごまでききたかったのになぁ…」
「…ま、いいじゃないか…一曲聴けたんだからさ……
 …ん? のの、その袋…どうしたんだ?」
ふと、ヤッスーが、ののの抱えている紙袋に気付いた。

「あ、これ…いいらさんがくれたんれす。あたらしいパンができたからって…
 本当はちゃんとお金をはらいたいんらけど、いいらさん”したっぱ”って
 おしごとしてるらしいから、あまりお金もってないそうなんれす。
 だからこれでカンベンしてね、って」
「…そっか」
 
234 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時32分42秒

いつものボロマンションに戻ってくる。
毎晩の習慣になっている焼酎をロックで煽り、ののを見ると
無邪気にパンをほおばっていた。
その姿を眺め、軽く溜め息をつく。

結局今回も報酬無しか…。ま、もう慣れたけどさ。

ヤッスーの脳裏に、以前ののが子犬を拾ってきたときのことが浮かんだ。
大方、今回も似たような理由で――道端で泣いてでもしていた梨華を
見つけて声をかけ、その話を聞いて同情してしまったのだろう。

別にそれでのののことを恨む気にはならない。
そんな子だからこそ一緒に暮らしているのだから。

「あ、やすらさんもいっしょにたべませんかぁ? これ、おいしいれすよ?」
ヤッスーの視線に気付いたののが、袋の中からパンを取りだし
差し出してくるのの。

「パンなんて酒のつまみにもならないけど……ま、いっか」

パンを受け取り、一口、口にほおばった。
 
235 名前:ブラック・ヤッスー 投稿日:2002年02月16日(土)00時33分34秒

「…!? 何よこれ! な…納豆!? なんでパンの中に納豆なんて入ってるのよ!
 しかも甘ッ! 普通の納豆なのに妙に甘いし!! 砂糖でも混ざってんのか!?」
「え〜? これ、おいしいじゃないれすかぁ。やすらさんはきらいれすか?」
「こんなもん食えるかっつーの!!」
「あっ、もったいない! 食べないんならののにくらさい!」
「……ほらよ」
「やったー! ……ん〜…おいしいれす…なっとうパン、おいしいのれすぅ〜」

「…はぁ〜〜……」

幸せそうにパンを食べ続けるのの。
その光景を見て、もう一度、大きな溜め息をつくヤッスーなのであった。
 
 
236 名前:_ 投稿日:2002年02月16日(土)00時34分32秒
      ◇
237 名前:_ 投稿日:2002年02月16日(土)00時35分08秒

――――

「…これ、本気でやるつもりなんですかぁ?」
目の前の台本から顔を上げ、矢口が言った。

「当ったり前やがな! これはイケルでぇ〜? うひひひひひ…」
向かいのイスに座っていたつんくがはりきって答える。
「はぁ〜…」

「…ちょっとつんくさん! なっちが照明係ってどういうことですか!?」
「ウチやって! ののが拾ってくる子犬の役ってなんやねん!」
安倍と加護がほぼ同時に声をあげた。

「私だって…スタッフその1って……」
吉澤も不満気である。

「いや、案外いいんじゃん?」
そう言ったのは飯田だ。

「ちょっと! 圭織はある意味一番オイシイ役だからいいだろうけどさあ!
 矢口なんて一緒に登場したにも関わらず、やることって言ったら
 一言喋って辻の腹揉んだだけなんだよ!?」
「え〜? でもそこそこ出演してるしぃ〜」
「そんなん納得できないっつーの!」

「ののだって、こんなに『れすれす』言ってないれすよ!」
「…いや、今また言ってるじゃん……」
すかさず矢口がツッコミを入れる。
新メン4人は、観客の1人という役柄だったのだが、さすがにまだ口答えは
できないようだ。
 
238 名前:_ 投稿日:2002年02月16日(土)00時35分59秒

だが、メンバー達の不平不満も全く耳に入ってない様子のつんくは、
「こりゃあホンマにピンチランナーを超える大感動作になるでぇ〜、うひゃひゃひゃ…」
と言い、嬉々として楽屋を出て行った。

「はぁ……まったく、あの人の考えることは……」
矢口がガックリと肩を落とし言葉を吐き出す。
「まあまあ、これはこれで面白そうじゃないですかぁ〜♪」
「…お前が言ったところで説得力のカケラもないよ……」
石川がそれを慰めようとする。だが、矢口には何の慰めにも
ならなかったようだ。

「ねぇ、圭ちゃんだってこんな役……うっ!」
さらに保田にも同意を求めようとした矢口が呻き声を発する。
その視線の先ににあったのは、今までにないくらい深みのある表情を
浮かべる保田の姿だった。



…結局、この企画がどうなったのかというと、つんくがはりきって
企画会議に出したものの、どこかの漫画からパクッたようなタイトル、
しかも5分で考えついたような内容のため、即刻却下されたのであった…。

……しかも保田が主役とあっては……


( ;`.∀´) <ちょっと! 最後の1行は余計よ!!
 
 
239 名前:_ 投稿日:2002年02月16日(土)00時36分30秒

         おしまい。  
 

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